はやり目
アデノウイルス結膜炎(はやり目)の診療方針について
当院での診療方針について、しばらく発信していきたいと思います。
第一弾は、はやり目(流行性角結膜炎)について、です。
2025年12月の日本眼科学会誌にウイルス性結膜炎診療ガイドラインが掲載されました。
ここでは、アデノウイルス結膜炎について、ガイドラインの内容に沿って、私自身の経験もふまえながら、説明いたします。
アデノウイルス結膜炎とは?
定義と歴史
流行性角結膜炎は、1889年に点状表層角膜炎として最初に報告され、アデノウイルスが病因と確定したのは1955年でした。日本では、1959年の日本眼科学会のシンポジウムにおいて、急性濾胞性結膜炎、角膜上皮下混濁、耳前リンパ節腫の3症状がそろったときの臨床診断名とされました。当初、病原体はアデノウイルス8型に限るとされましたが、その後、100を超える様々な型が報告されています。また、同じアデノウイルスによる感染症で、結膜炎よりも上気道炎や咽頭炎などの全身症状が強い咽頭結膜熱(プール熱と呼ばれることも)があります。
臨床現場で、アデノウイルスの抗原検出キットによる検査が広く普及するようになって以降は、これらをアデノウイルス結膜炎と包括的に捉えることが一般的になり、現在に至っております。
症状
感染から7~14日の潜伏期を経て、充血、流涙、眼瞼腫脹、異物感、眼脂などの症状で発症します。まず片眼に発症し、数日をおいて他眼にも感染し両眼性となることが多いです。
両眼同時発症は1~2割程度あります。発症1週間前後で見られることがある多発性角膜上皮下浸潤(MSI: multiple subepithelial corneal infiltrates) は、近年流行が続いているアデノウイルス54型では合併頻度が70~80%と高く、結膜炎治癒後に角膜上皮下混濁を残す患者さんも多いです。乳幼児では、偽膜を形成することが多いので、注意が必要です。
検査法
当院で採用している抗原検出キットは、検体として結膜擦過物が必要です。付属の滅菌綿棒で瞼結膜をこすります。点眼麻酔はしますが、少々痛みを伴います。結果判定には15分ほど必要で、特異度はほぼ100%なので、陽性であれば、アデノウイルス感染と確定できます。
ただし、検出感度が80%程度なので、陰性であっても感染を完全には否定できません。
また、実際の診療の現場では、アデノウイルス結膜炎を強く疑わない場合でも、念のため検査を実施することもあります。このような点を考慮すると、抗原検出キットが陽性になるのは10~20%程度で多くは陰性の結果となります。しかし、陽性であればアデノウイルス感染が確定できるため、実施する意義は大きいと考えます。
治療
現時点でアデノウイルスに対する特異的な抗ウイルス薬はなく、アデノウイルス結膜炎の原因治療はできません。急性期の消炎とMSIが治療対象となります。
ウイルス性結膜炎には本来抗菌薬点眼は無効ですが、ある程度で細菌の重複感染がみられており、抗菌薬点眼が必要な場合もあります。ステロイド点眼は、早期の強い炎症に対する症状緩和目的に使用されることが多いです。また、MSIに対して副作用に注意しながらステロイド点眼を比較的長期に用いることもあります。MSI遷延例に対して、免疫抑制薬点眼を検討することもあります。薬物以外の対応として、偽膜形成を生じている場合、癒着や瘢痕化を防ぐ目的で無理のない範囲で除去します。
当院の診療スタンス
苦い経験から学んだこと
眼科医になりたての頃、アデノウイルス結膜炎の院内感染により病棟閉鎖となる事態に直面しました。先輩医師の指示のもと、自分たちスタッフも含め大勢の患者さんの結膜擦過を同期の医師とともに連日おこないました。自分自身は日をかえて複数回検査を受けすべて陰性でしたが、やや充血がみられたということと検査業務に従事していたとの状況経過から、2週間の勤務停止を命じられました。
この抗原検出キット検査の限界や眼科医の経験則による判断の悩ましさを、眼科医1年目にして痛感したことを今でもよく覚えています。
その後、外来診療の現場で、抗原検出キットの検査結果が陰性であっても、臨床所見と経過からアデノウイルス結膜炎と臨床診断を下す場面が少なからずありました。
痛い思いをさせて結膜擦過をして結果が陰性でも感染は否定できず、感染に準じた対応を患者さんに説明するくらいなら、そもそも抗原検出キットによる検査をあまりしないようにしていた時期もありました。
前職の総合新川橋病院に在職中、結膜擦過検体ではなく、ろ紙で採取した涙液検体で検査可能なキットが導入され、従来の目視判定ではなく、銀増幅の原理を用いて機器判定となり、感度も90%近くまで上昇したとの報告がありました。院内の感染症対策スタッフと協働し、総合新川橋病院眼科における年間のアデノウイルス迅速検査の全例の統計をとるなどの取り組みをしました。そもそも検査実施の判断は各医師の裁量のため、有意な統計的な結果は出せませんでしたが、私自身の感覚として臨床的に陽性だろうと思って検査をして陰性の結果となることは減った印象でした。逆に、臨床的にアデノウイルス結膜炎の可能性は低そうだが、念のため迅速検査を施行してみたら陽性の結果となったことが少なからずありました。ウイルスの型は経年的に変化し流行状況も変動するので、自身の経験則に頼らず、必要な検査を的確におこなうことの大切さをあらためて痛感しました。
現在のアデノウイルス結膜炎に対する診療のスタンス
このような経緯を踏まえて、現在の私自身のアデノウイルス結膜炎に対する診療のスタンスは以下の通りです。
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患者さんが少しでもアデノウイルス感染を心配していたら、臨床所見は乏しくても迅速検査をおこなう
陰性が確認されることで、安心して生活を継続できます。
例)保育園にいかせても大丈夫ですか?修学旅行にいっても大丈夫ですか?など -
本人の自覚症状は乏しいが、臨床所見からはアデノウイルス感染が疑われる場合
従来通り、迅速検査の限界を説明したうえで、積極的に検査を施行します
→陰性の場合、感染は否定できない(日を改めて再検査したら陽性となる可能性など)
→しかし、現時点で感染と確定診断できないため、周囲への感染の可能性など十分注意のうえで生活を継続
ただし、医療従事者など院内感染を助長する可能性がある場合などはケースバイケースで対応
上記いずれの場合も積極的に迅速検査をおこないます。
なお、当院の抗原検出キットは、従来の結膜擦過検体を要するタイプです(少し痛い思いをさせてしまいます)。
受診の時点で、受付スタッフが疑った場合、院内感染対策として座席を指定させていただき、視力検査などはおこなわず、すぐに医師の診察となります。
今後の展望
アデノウイルスに限らず、感染症を取り巻く医療の状況は日々変化していきます。
当院での検査結果についても真摯に検証し、今後、またご報告できればと思います。
以上、長くなりましたが、当院での現時点での「はやり目」に対する診療方針です。
